急性上気道炎・かぜについて
急性上気道炎は、主にウイルス感染によって起きる発熱、咳、鼻水症状を主体とする感染症で、いわゆる風邪と呼ばれる病気です。2~3日で解熱し、症状が改善することがほとんどですが、特に乳児期のお子さんでは3日以上発熱が持続し、徐々に痰がからんだような咳の悪化やゼイゼイした呼吸の苦しさが見られ、気管支炎、肺炎に進展することもあります。保育園や幼稚園に通い始めると増加し、1年間に10回以上かかることもあります。
かぜの症状は意外としつこい
5~12歳のお子さんを対象として上気道炎(かぜ)の自然経過を調べた研究結果です。
発症2~3日頃に有症状率のピークがあり、1週間経過してもまだ半数のお子さんが咳と鼻水の症状が出ている点は重要と思います。
つまり小学生くらいまで成長してもかぜをひいたら1週間は症状が持続することがよくあることで、10日くらいしてやっと症状が消えていくことが自然経過であるとわかると思います。
(*推測にはなりますが、5歳未満のお子さんでは免疫力などが未熟な分、このデータよりも発熱の頻度が高く、症状も長引くのが一般的ではないかと診療を行いながら感じています)
ハチミツは咳止め薬よりも効果的かもしれない
ハチミツVSデキストロメトルファン(メジコンⓇ)VS何もしない
アメリカで行われたハチミツなどの効果を比較した研究をご紹介します。2歳~18歳のこどもの咳と鼻水症状に対して3つの介入を比較しています。1つ目はハチミツ(2~5歳までは小さじ半分、6~11歳までは小さじ1杯、12歳以上は小さじ2杯)を寝る30分前に与える、2つ目は日本でも処方される咳止めのデキストロメトロファンを内服する、3つ目は何も投薬せずに経過観察するグループを作り、2日間の治療効果を保護者の方への質問用紙を用いて評価しています。ハチミツ≧デキストロメトロファン>経過観察の順で改善率がよさそうな結果になっていました。
下の図の縦軸は数字が大きいほど症状がひどく0-6点の7段階スコアで保護者の方が回答したものです。
Cough frequency(こどもの咳の頻度)、Cough severity(こどもの咳の程度)、Child’s sleep(こどもが眠れているか)、Parent’s sleep(親が眠れているか)の項目すべてで初日の夜に対して2日目の夜のスコアの改善率がハチミツ≧DM(デキストロメトルファン)>No Treatment(経過観察)となっていました。
似たような研究結果がほかにもあるため、これらが咳止めの処方よりもハチミツをお勧めしている理由です。
風邪薬を複数飲めば症状が早く良くなるわけではない
カルボシステインvsカルボシステイン+チペピジン(アスベリンⓇ)
日本で行われた風邪薬の効果を比較した研究をご紹介します。1歳から就学前のこどもの咳症状に対して2つの介入を比較しています。
1つ目はカルボシステイン(痰を出しやすくなると言われているお薬)を内服する、2つ目はカルボシステインとチペピジン(咳止めのお薬)を内服する2つのグループを作り、2日後に電話で保護者の方へ咳症状の程度を確認しています。
カルボシステイン単独の方が改善したとする保護者の方の回答が多く、咳止めとされるチペピジンを追加した方が結果が悪くなるという結果でした。残念ながら、この研究では何もしない経過観察のグループを用意しなかったため、そもそも風邪薬に有効性があるかどうか議論できませんでしたが、咳症状に対して咳止めを上乗せしても効果はなさそうだと示唆する結果は参考にすべきと感じました。
治療方針
当院では1歳以上のお子さんであれば熱や痛みに対しては解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンを、咳に対してはハチミツを処方して経過を見ることを基本の方針としています(市販のはちみつでも大丈夫です)。
はちみつは小さじスプーン1杯程度を目安に1日1回夜の歯磨き前に食べさせましょう(虫歯に注意です)。
期間は咳症状が治まるまで、もしくは1週間を目安にしましょう。
そのままなめるのが苦手なお子さんではヨーグルトや飲み物に混ぜても大丈夫です。
*1歳未満へのお子さんはボツリヌス菌感染のリスクがあるためハチミツは食べれません。
*またほとんど場合にウイルス感染が原因のため、抗菌薬(抗生物質)は効果がありません。
抗菌薬によって腸内細菌のバランスが崩れて起きる下痢の症状が出たり、長期的には耐性菌(抗菌薬が効かない細菌)が出てくる原因となるため、経過の長い肺炎や中耳炎を合併した場合にのみ抗菌薬の処方を行います